ねて寝床に転《ころ》げ込むと、初めの内はやさしく私を忍ばせたお前が何と思ったか寝床に横たわりながら
「あなたあっちいってお休みなさい。別にあなたの蚊帳を吊《つ》ってあげますから……ここは私の寝るところです」
 と、神経の亢進《たかぶ》ったようにはねつけた。
「いんにゃ、ここでいい、もう怠儀だ」
「怠儀だって、それはあなたの勝手じゃありませんか。あなたはもうここを出て去《い》った人です。一旦切れてしまえば、あなたと私とはもう赤の他人ですから、どこか他へ宿を取るなり、友達のところに行くなり、よそへいって泊って下さい」
「…………」
「ねえ、そうして下さい。ここは私の家です、あなたの家じゃありません。こうしていて明日《あす》老母《おばあ》さんに何といいます。あなた私の家の者を馬鹿にしているんだからそんなことは何とも思わないでしょうが、私が翌朝《あす》お老母《ばあ》さんに対して言いようがないじゃありませんか。私がすき好んでまたあなたを引き入れでもしたように思われて……」
「…………」
「ねえ、そうして下さい。どっか他へいって泊って下さい。あなたは何をいっても私の言うことなど馬鹿にしている。そう
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