な骨折りではなからうと想像される。もともと必要あつてさうした結果であることは明かであるが、よく見ると大小があり、木の薄い厚いがあつて、多少盆栽趣味も加つてゐるらしく見うけられる。この防風林に金をかけ過ぎて身代をつぶしたといふ笑話があるほどだ。もつとも、一代や二代では美事なものができるわけはないから、これが家の自慢になつてゐることもまんざらうそではなささうである。私が通つたときにも、ちやうど手入れを終つたばかりらしく、刈りこんだ松の枝々の間から、家と土蔵の白壁が透いて見えたりして、なかなか風情のある家が目についた。こんなところに入念な手入れをするのも、風土色のしからしむるところとはいへ、やはり出雲人の気質を現してゐるのだらうか。
しかし、この刈りこまれた防風林は簸川平野だけにかぎられるので、広瀬から中海にかけての平野にはそんなものはない。広瀬は山陰の鎌倉といはれるくらゐで、今は昔日の俤はないが、しかし何となく落ちつきのあるきれいな小さい町だ。これが中海辺にかけて、簸川平野とは又ちがつた明い、穏かな野をひろげる。この野がしだいに山から遠のいて、中海の水辺と結ぶ線に沿つて、荒島、赤江、安来
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