つたはつてゐるいはゆる「鉄穴《かんな》ながし」といふ砂鉄採取法と、「たゝら」と称する製鉄法とは、甚だ古風なものであり、しかもその古風な「たゝら」によらなければよい鋼が得られないといふ不思議なやうでもある。
出雲で、現在この「たゝら」吹きをやつてゐるのは、奥出雲の鳥上村に在る「靖国たゝら」と、それから山を背中合にした位置に在る布部村の「桶廻《ひのさこ》たゝら」の二つであるが、私が見たのは布部村のそれである。
今日、布部のたゝらを経営してゐる玉鋼製鋼会社の調査によると、同じ中国山脈から出るものではあるが、山陰側と山陽側とでは砂鉄の性質がかなりちがつてゐるといふ。山陰側に出るのは真砂《まさ》と称し、粒も大きく、黒色の光沢を有する磁鉄礦で、不純物も少いさうだが、山陽側に出るのは赤目《あかめ》と称し、粒も細かく、褐色を帯び、燐、硫黄、酸化チタニウムの含有量も真砂よりは多いといふ。つまり、中国山脈を間にしたゞけで、その気候風土により風化の工合がちがふところからさういふ差が生じたのではないか、といふ技師の説明だつた。
話は元へもどるが「鉄穴ながし」といふのは、砂鉄を含む花崗岩の風化した斜面など
前へ
次へ
全12ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田畑 修一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング