、君」
 と、彼は思ひ出したやうに房一の顔をのぞきこんだ。それは、いつか道平を診察しての帰り路で、「あれだね、君は見かけによらない親思ひなんだね!」と叫んだ時とそつくりな感嘆をまじへた親しさといつた色が閃いてゐた。
 練吉はそこで房一について廻つたばかりでなく、角屋までもくつついて来た。そして、同じやうについて来かけた徳次を見ると、
「いゝよ、君。帰りたまへ、その方がいゝんだから」
 と、云ひながら徳次の肩をつかんで押しもどした。誰もが疲労のための一種|煤《すゝ》けじみた鎮静を現してゐたにもかゝはらず、練吉だけは明かにまだ興奮してゐた。と云つて悪ければ、恐しく深い印象を与へられたものの如くであつた。そして、一応の取調べを受けに、二人の責任者が参考人として自動車に乗せられ、本署のある町まで同行を求められたときに、練吉は自分も乗う込まうとして加藤巡査にひきとめられた。
 自動車が動き出した時、練吉は唇のはしをびりびりさせ、あの切れ目の顔に何かしら水をかけられたやうな表情になりながら、
「あゝ、さうか。あゝ、さうか」
 と、呟き、房一に向つてしきりとうなづいてゐた。

 房一はその晩留置され
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