射撃なんてものは昔はなかつたもんだが、こなひだの競馬は僕も見たけれども、子供の時以来十何年ぶりのわけだが、あれはちつとも変つてゐないね。優勝の景品が米俵だなんてね」
「去年はなかつたんですよ。何でも博労《ばくらう》同士のうちわ揉《も》めがあつたとかでね」
 と、小谷が云つた。
「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」
 房一は目を輝かせて云つた。
「なに? 競馬のこと?」
 と、急に練吉が小耳にはさんで云つたのは、多分黙つて他のことを考へてゐたのだらう。
「僕はクレーが済んでから行つたんでね、もう終りで相沢の馬が勝つところだけをちよつと見たよ。――相沢、得意さうだつたぢやないか」
「御機嫌だつたね」
 さう答へながら、房一はふいに、競馬場で会つた相沢のことを、そのとき彼が何だか意味ありげに云ひのこして去つた言葉を思ひ出した。

 房一は早くから競馬を見に行つてゐた。観覧席で相沢に会つたので挨拶した。訴訟の話を聞いた頃からずつと会はなかつたのである。相沢はあの特長のある黒味のひろがつた目で、やはり馴れ馴れしげにぐつと身体を近寄せて房一を眺め、彼の馬が来てゐ
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