めに一層老人臭い顔になりながら会釈《ゑしやく》をした。そして、一度は手にできた皮膚病を診てもらひに房一のところに来さへした。その時のことであるが、彼はふいに自分の死んだ一人息子の話をした。
「やつは、わつしの土方家業がえらい嫌ひでしてな」と、彼は云つた。
「どうしても学問をやるというて聞きませんだつたが。――それで神戸高商を出ましてな住友へ入つて結構やつとりましたが、三年前にぽつくり行つて[#「行つて」に傍点]しまひましたよ。病気ですか? 結核性脳膜炎とか云ひましてな、十日ぐらゐで、あつさりしたもんでした」
 それから、彼は薬を塗りたくられ、繃帯をまかれた両手をちよいちよい眺めながら、片足を一方の膝にのつけた坐り方をしたまゝ、いくらか吃《ども》るやうに、簡単な手短かな話振りで、身の上話らしいものをちつとも身の上話らしくない調子で洩した。息子もさうだつたが、彼の妻も病身で不自由な工事場のバラック住ひが「出けん[#「出けん」に傍点]」もんだから、ずつと神戸在の田舎に置いてある。(さうすると、本妻と妾と二人住まはせてゐるといふ見て来たやうな噂はあてにならないなと、房一は思つた)「わしはこんな
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