何かしら房一自身の奥にもぢかにつながつてゐる、微妙な、過去の記憶といつしよくたになつた或る物が、ふしぎな力で彼の方を眺めてゐるのを感ずる。はだけた胸に生えてゐる一つまみの白毛、ひからびて弾力を失つた皮膚、横臥してゐるために腹部が落ちこんで、そのためによけい突き出すやうに持上つて見える肋骨の形、茶色がかつた紫色の痣《あざ》のやうにぽつりとひろがつてゐる乳部の斑点だの、――さういふものは、房一の扱ひ慣れてゐる「患者の肉体」ではなく、一つ一つが見覚えのある特長を帯び、そこに父親といふものの形を感じさせ、それまで迂濶にも忘れてゐたもの、隠れてゐたもの、眠つてゐたもの、この露《あら》はになつた肉体と房一との間に結ばれてゐるあの無数な、生まな感情が、おびたゞしくふしぎな強さで押しよせた。それと共に、何だか後《うしろ》めたいやうな、愛情の混乱と云つた風な奇妙なこんぐらかりが、房一の内心に苦痛と動揺とをよび起した。
彼は自信を失つた。それにこの苦痛と動揺は明らさまに説明しにくい、説明したところで判つてもらへない種類のことだつた。房一はそれを盛子の妊娠の揚合にも経験した。
盛子ははじめ打明けたとき、
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