るらしかつたが、南洋占拠をのぞいては格別報道されることもなく、したがつて欧洲大戦による日に上昇する好景気の他には、戦争をしてゐる気分は殆どなかつた。
とにかく、それは遠い向ふで起つてゐることだつた。対岸の火事を見物するやうなものだつた。
「印度洋の方では、何とかいふ軍艦がたつた一隻で荒《あ》ばれまはつてゐるんだつてね。それがちつとも捉《つか》まらないと云ふから面白いねえ」
「うむ、うむ」
「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」
練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。
「――さうだな」
房一は暑さのために鼻の頭に汗粒を浮かべて、気のない調子で相槌を打つた。その様子でも判るとほり、彼はさつきからまるで別のことで気をとられてゐた。
老父の道平が卒倒した今はちやうど房一の忙しい時期だつた。と云ふのは、彼の患者の大部分を占めてゐる農夫達は農閑期に入ると、それまでがまんをしてゐたために急に病気になつたり、ぶり返したりするのであつた。道平はここ三四日の間が危険期だつた。房一は殆どつき切りで、間には何度も家の方へ来る患者の診察にも帰らねばな
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