のことが僕にはよく判らないんだ」
「ふむ、ふむ」
 練吉は意外なことを耳にしたといふやうにちよつと房一を眺めたが、熱心に聞いてゐた。
 房一の老父、道平が二三日前に倒れたのだつた。そして、今、練吉に対診を求めて来たのである。
「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」
 その時、突然練吉は、房一がさう云ひかけたまゝ当惑した表情になつたのを見た。
「なにしろ、迷ふんだな」
 房一はいかにもそれがやり切れない、と云つた風に吐き出すやうに云つた。つゞけて、
「かう云ふと、君は笑ふかもしれんが、自分の親だの子だのいふ者を診るのはじつに困るんだ。なんだかそはそはしてね」
 実際、練吉の滑つこい気持よくふくらんだ頬には、その時ちらりとした微笑の影がさしてゐた。
「いや、さういふことは人によつてはあるんだよ」
 と、練吉は急いで云つた。
「まあ、とにかく、御迷惑かもしれないが、一度御足労を願ひたいと思つてね」
「あ、いゝ、いゝ。なんでもありやしない。今すぐ行かう」
 練吉は立ち上つた。正文の代りに往診をたのまれてもあんなにいやいやだつたにもかゝはらず、今の彼はまるで打つて変つた気軽
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