吉は永い間黙つてゐた。それから、いかにもいやいやな調子で、
「うん、行くよ。――だが、夕方でいゝだらう」
 云ふなり、ごろりと仰向けにひつくり返へると、新聞を持ち上げ、眼をぱちぱちさせ、やがてうとうとしはじめた。すると、面長な、普通よりもよほど大きい練吉の寝顔には、年に似合はない駄々児のやうな表情が浮んだ。

 その塗りの色の落ちついた外まはりの築地塀、よく拭きこまれた廊下、塵一つ落ちてゐない部屋々々、渋い雅致のある床の置物だの掛軸、これらすべての上に現れてゐるどこか神経質でさへあるよい趣味と堅固さ――さういふ外見にかかはらず、大石医院では年来をかしなごたごたが繰り返されてゐた。
 結婚してもう三四年になるが、いまだに出たり入つたりを繰り返してゐる茂子は、練吉にとつては三度目の妻だつた。最初のは男の子を一人のこして去つた。二度目は半年もたゝないうちに大石の方から帰した。今度の茂子の場合だつて、当人も居辛からうが、大石の側でも面白くはない、どうでもいゝと云つた調子であつた。そして、ふしぎなことにはかういふ態度は大石の正文老夫婦から出てゐるので、練吉の方は吾不関焉《われくわんせずえん》とい
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