を浮べたきりだつた。
何となく視線が自分に向けられるのを感じながら、房一は案外に落ちついてゐた。予期した通りだつた。房一の腹の中はきまつてゐた。
間もなく神原直造は一種段取りのついた慇懃《いんぎん》な荘重さともいふべき様子でゆつくりと来客の居並んだ前へ進み出て挨拶した。彼には紋付の羽織に袴といふ形がいかにもよく似合つてゐた。その稍角張つた肩のあたりにも、それから、一体に老いて強さはなくなつてゐるが、まつ直ぐな鼻筋だの、その上にかつきり線を引いたやうな白毛まじりの太い眉だのの上には、ちやうど彼の身につけた袴の襞《ひだ》と同じやうに、一種云ふべからざる古雅な端正さがあり、それは同時に低い枯れた声音《こわね》の中にも響いた。
「お粗末ではござりまするが、どうぞごゆるりと」
云ひ終ると、直造は叮重《ていちよう》に頭を下げた。
来客の間にほつと寛《くつろ》いだ空気が流れ、直造が袴をさばいて立ち上らうとした時だつた。
「折角のところを、突然でまことに失礼でありますが」
聞き慣れない太味のある声が立つた。直造は立ち上りかけた膝を又ついて、ふり返つた。彼は席のまん中近くへ進み出てゐたので、声
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