やがみこんだのを見ると、又一目散に戻つて来、まはりの草の中を嗅いで見、二人を眺め、一向に動きさうもないと知ると、石ころの上に腹を着けて長い舌を出した。が、急に尻尾を振つた。二人が彼の方を向いたからである。
「あんたの犬かね」
「さうだ」
 徳次は何かしら話に困つてゐた。で、彼は真面目な熱心な目つきで犬を眺めた。ところが、この犬まで普通のものとはちがふやうに思はれた。それは確かに「医者の犬」だつた。短い白毛の生えそろつた地はちつとも汚れてゐなかつた、茶斑の所は艶があつて上等の織物の模様みたいであつた。そして、全体に清潔でゆつたりしてゐた。
 が、徳次は話したいことが一杯あつた。彼には女の子ばかりが四人もあつた。一人ゐる男の子はまだ赤ん坊だつた。それらは全くうようよと、徳次の知らない間に生れて来たやうな気がした。家の中を葡《は》ひずりまはり、土間にころげ落ち彼の足にとりつき、彼を「お父ちやん」と呼んだり、「お父う」と罵つたりする。彼は子供を可愛がつてゐるのか煩《うる》さがつてゐるのか、自分でも判らなかつた。彼にはあらゆることが矍鑠《くわくしやく》とした老船頭だつた父親がいつの間にか耄碌《も
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