たる「新世界巡礼」は、ここに諸君の御後援によってENDを全うするを得た。帰来僕は、一そう印象の沈澱するを待って、亜米利加《アメリカ》風に言えば「|古い町《バアグ》に鼠《ラッツ》を起し」てやろうと待ち構えてるだけだ。
 一年の間あちこち僕達について来て下すった読者諸君に、この機会に厚くお礼を申し上げたい。そして特に、終始一貫、有形無形に多大の援助を賜わった中央公論社長島中雄作氏に、僕は心からなる感謝と握手の手を差し伸べる。
 僕の知人に偉大な文化人がある。彼は、夕刻帰宅すると玄関へ出迎える細君へ向って大喝一声するのだ。「NOW!」と。
 けだしこのNOWは「只今《ナウ》!」の意であろう。
 で、新帰朝者の僕たるもの、一つ英語で諸君に御挨拶しなければなるまい。
 そこで、大きな声で、
『NOW!』

[#地から7字上げ]新緑の鎌倉にて
[#地から3字上げ]譲次



底本:「踊る地平線(下)」岩波文庫、岩波書店
   1999(平成11)年11月16日第1刷発行
底本の親本:「一人三人全集 第十五巻」新潮社
   1934(昭和9)年発行
※底本には、「新潮社刊の一人三人全集第十五巻『踊る
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング