踊る地平線
附記
谷譲次
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)倫敦《ロンドン》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)「|古い町《バアグ》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぷうん[#「ぷうん」に傍点]と
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旅から帰って、はじめて郷国の真価値がその額面通りに買い得るというものだ。今の僕がそれである。もう、実を言うと原稿なんかどうでもいいんで、ただやたらに日本の着物を着て、たたみに寝ころんで、好きな日本の食物を並べておいて、片っ端から食べていたいだけだ。下素だが、真情だから仕方がない。が、この二、三日、半夜孤座して、持ち帰った荷物の整理をしている。すると、実に下らない色んなものが出て来るんだが、それが、僕の嗅覚へぷうん[#「ぷうん」に傍点]と「あ・ち・ら」のにおいを送って、どうかすると、倫敦《ロンドン》の雪、巴里《パリー》の雨なんかと独りで遊子ぶったりすることもないではない。僕にとっては、洋服のしみ[#「しみ」に傍点]一つにも、忘れられない思い出が蔵されているかも知れないのだ。
とにかく、一年にわ
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