がお》いぎりす紳士と。
 靴をはいてるのが欧羅巴《ヨーロッパ》人で、跣足《はだし》で歩いてるのが印度《インド》人。天鷲絨《ビロウド》の骸骨頭巾は馬来《マレイ》人だ。
 が、ほんとのコロンボは土人街にある。
 まず市場。
 果物市場。
 パイナップルと青香|樒《しきみ》の雄大な山脈。檸檬《レモン》・檳榔樹《びんろうじゅ》の実・汁を含んだ蕃爪樹《ばんそうじゅ》・膚の白い巨大なココナッツ・椰子玉菜・多液性のマンゴステン・土人はこれで身代を潰すと言われてる麝香猫《ドリアン》の実・田舎の少女のようなパパヤ・竜眼・茘枝《ライチイ》・麺麭《パン》の実・らんぶたん――。
 住民は、男か女かちょっと判断のつかない服装をしている。鬚のない顔に長い睫毛《まつげ》、頭髪をうしろに垂らすか、結い上げるかしているから、なるほど紛らわしいわけだ。そして、その家である。セイロン島の住宅は、すべて往来へ向って開けっ放しになっていて、形ばかりの椰子の葉の衝立なんかを仕切りに立ててあるに過ぎないので、店でも居間でも、おもてからすっかり見える。床屋がある。易者の店がある。高利貸、質屋、陶器師の土間、RAJAHのような魚屋の主人、糊つきの網絹で面覆《トウル》をした婦人たち、彼女らの不可解な胴緊衣《ボディス》、ずぼんの上から欧風|襯衣《シャツ》の裾を垂らして、ゆらりゆらりと荘重に歩く金融業者《チェティス》、眉間に白く階級模様と家紋を画いている老貴族、額部に宝石を飾った若い女の一行、そのあいだに砂塵を上げて、満員の電車と、レヴィニア丘行きの乗合自動車が驀進してくる。
 私達も、自動車を駆って郊外へ出た。
 市街をあとにするが早いか、場末に当る区域はなくて、すぐに田舎である。砂ほこりが私たちを追っかけて来る。緑樹に挟まれた赭土《あかつち》の道が、長く一ぽん私達の前に伸びて、いたるところに新式の農園が拓かれつつあるのを見る。古い土に若い力が感じられる。ココナッツの森を越すと、陽にたぎ[#「たぎ」に傍点]っている水田の展望だ。玉突台のような緑野の緩斜面だ。そこここに藁葺《わらぶ》きの小屋がある。花壇のなかに微笑して建っている。マグノリアのにおいがする。村の入口では子供が出迎える。車が通る。馬のかわりに水牛が牽《ひ》いている。瘤牛《ジイブ》が畑を耕している。その角はすべて美々しく彩色され、頸には貝殻の襟飾りだ。田園のあ
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