「る首の赤い給仕人の群・舌と動作の滑かな大詐欺師の一隊――現世紀に逆巻く唯物|欧羅巴《ヨーロッパ》の男女の人生冒険者が、各々の智能と衣裳と役割を持ち寄って、この一冬のモリッツに雪の舞踏を踊りぬく――それは、夜を日に次ぐ白い謝肉祭《カーニヴァル》なのだ。
 もちろんそこには、一年じゅうの給料を貯金したので着物を買って来て、うまく名流の令嬢に化け澄ましているマニキュア・ガアルや、故国の自宅へ帰ると暗い寒いアパアトメントの階段を頂上まで這い上らなければならない、自選オックスフォウド訛《なまり》の青年紳士やが、それぞれ「大きな把握」を狙って、このSETにまじって活躍していることは説明の必要もあるまい。サン・モリッツは、偽《にせ》とほん物のカクテル・シェイカアだからだ。皆がみな、お互いに Make−believe し合って、その相手の夢を尊重する約束を実行している催眠状態――山と湖と毛糸の襟巻によって完全に孤立させられている別天地だからだ。おまけに、雪はすべてを平等化する。眼をつぶって心描して下さい。雪の山と、雪の野と、雪の谷と、雪の空と、雪の町と、雪の女とを。そして、この切り離された小世界に発
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