年齢に達した娘たちの大集団・独逸《ドイツ》から出稼ぎに来てる首の赤い給仕人の群・舌と動作の滑《なめら》かな大詐欺師の一隊――現世紀に逆巻く唯物|欧羅巴《ヨーロッパ》の男女の人生探検者が、おのおの智能と衣裳と役割を持ち寄って、この一冬のMORITZに雪の舞踏を踊り抜く――それは、夜を日に次《つ》ぐ白い謝肉祭《カアニバル》なのだ。
したがって、物価が出鱈目な点でも、季節のサン・モリッツほどのところはあるまい。何しろ、高ければ高いほど金の棄《す》て甲斐《がい》があるという連中ばかり来るところなんだから、その法外さが随一なのは無理もないとして、近い例が、倫敦《ロンドン》で一|打《ダース》入り一箱十|片《ペンス》半のXマス爆烈菓子が、ここでは一個につき二|法《フラン》――瑞西《スイツル》の法《フラン》だから、約一|志《シル》六|片《ペンス》――もすると、眼を丸くして話した善良な老婦人があったが、これも考えてみると、妻の誕生日|贈物《プレゼント》に飛行機に飛行士をつけてやったり、リンクでちょっと相識になった人が帰ると聞いて、こっそり買い入《いれ》た最新型の自動車を出発の朝ホテルの玄関へ廻して置いて「|驚かし《サプライズ》」たりする「|巨大な人々《ビッグ・ピイプル》」にとっては、こうであるほうがほんとなのだろう。僕らの知ってる一人の中年過ぎた亜米利加《アメリカ》の女は、善美を尽した一大汽船を移動邸宅にして、それに船長以下数百の乗組員と、身の廻りの召使い達と、男女の客と、食糧と日常品と管絃楽を満載してしじゅう世界中を浮かび歩いて遊んでると言った。彼女の船にはプウル・舞踏場・玉突き室・大夜会場・テニスコウト・幾つかの自動車庫・それに農園や牧場まであるという評判だった。冷凍室《アイス・チャンバア》なるものを信用しない彼女は、こうして船中に自給自足の設備をととのえているのだとのことだった。その船は、いまゼノアに停泊していて、彼女は、船長と無線電信技師と何人かの愛人と執事と女中の上陸団を統率して、モリッツ・ドルフの Suvretta Haus に可笑しいほど大袈裟《おおげさ》な弗《ドル》の陣営を構えていた。
まあ、こういうのは僕らに直接関係がすくないにしても、言わば、こんなのが冬の聖《サン》モリッツを作る中枢系統なんだから、純粋にスポウツそのもののためにやって来る人は比較的少数だと断定
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