Aスキイヤアは雪杖《ステック》を持たない。なめらか雪のトラックを辷《すべ》って来て、一線に小高く築いた踏切りへ達すると、スキイヤアはそのはずみで空へ飛ぶ。同時に両手を円く廻して飛行を助けるのだ。下が急傾斜になっているから、しぜん遠くへ届く。記録の計り方は、踏切線から、スキイの背部の落ちた地点までを取ることになっている。転べば除外される。
スケイティング――瑞西《スイツル》のスケイティングには、大陸式《コンチネンタル》と国際式《インタナショナル》の二類型ある。
前者は、言い換えれば英吉利《イギリス》風で、手も足も、身体《からだ》全体を直線的に動かしてスケイトしなければならない。インタナショナルの方は、足の使い方も自由だし、運動を助けるために身体をどう曲げてもいいことになっているから、初めての人にはこのほうが這入りやすい。曲《ファンシイ》スケイティングには、短かいスケイトが適当とされているが、氷ホッケイや競争には長スケイトが用いられている。
その他、いま言った氷上ホッケイだの、カアリングだの、バビングだの、テイリングだの、ルウズィングだのと、これらがまた幾つにも別れて、瑞西《スイツル》あたりのウィンタア・スポウツになると、かなり複雑なゲエムに進化しているが、そのなかでも、最も勇敢で、したがって一ばん危険の多いのが、俗に「骸骨《スケルトン》」と呼ばれるトボガン橇《そり》である。これは鋼鉄のスケルトンの上に板を渡して、走者はそのうえに、頭を下にして腹這《はらんば》いになる。うしろに出ている靴の爪先きにスパイクがついていて、それで舵《かじ》を取るのだ。時として肘や膝にもプロテクタアを当てがい、人によっては顔に厚い保護面《マスク》を被《かぶ》ることもある。滑路の両側には高い雪の塀を造って、橇が横へ外《そ》れないようにしてあるが、往々にしてそれを越えてすっ[#「すっ」に傍点]飛ぶことが珍らしくない。聖《サン》モリッツのとぼがん[#「とぼがん」に傍点]の記録は、ついに一時間七十|哩《マイル》を突発している。例のモリッツ名物CRESTA・RUNというのがこれである。
言うまでもなくモリッツのウィンタア・スポウツは、じつに大仕掛けなものだ。たとえば、スキイ・ジャンピングの競技場などでも、他のレゾルトでは、スキイ穿《ば》きで見物に来た人が、ずらりと雪の上に立って取り巻いているくら
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