て来ました。可哀そうなベニイ! 神経衰弱だという評判もあります。』
『彼は、家族と別れて住んでいるのですね。』
『そうです。家族は、ロマニア州のフリウリ村に居ます。ベニイの羅馬《ローマ》の邸《やしき》は、ノメンタナ街―― Via Nomentana ――の六六・六八・七〇番で、アルサンドロ街から次ぎの角まで、一区劃《ブロック》を占めている、宏大なものです。ミケランジェロの建築と言われている法王門《ポルタ・ピア》から、両側に、閑静なアパートメントと、乾麺類や薬を売る近処相手の小商店とを持つ、かなり広い並木街が、真直ぐに逃げています。そこの、門《ポルタ》に一番近く立っているアカシア街路樹に、いつか、ベニイを暗殺し損《そこ》ねた同志の弾丸の痕《あと》が、今でもはっきり[#「はっきり」に傍点]木肌に残っているはずです。その前から、眠そうな電車に乗ります。すると、一|伊仙《チェンテズモ》分だけ行ったところに、あなたは、聖ジュセッペの寺院の円屋根《まるやね》を見るでしょう。そうしたら、電車に別れて、あの辺特有の、今ならば霜解けの非道《ひど》い、鋪装《ペイヴ》してない歩道|傍《わき》の土を踏まなけれ
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