忠実に反復するだけの労力でいいのです。女が売春を装ってキャジノから男を啣《くわ》え出す。そして町角で気絶を真似る。そこへ「23」が現われる。オテル・ドュ・パリあたりの名流の客は、自分の名前に対してだけは恐ろしく潔癖ですから、例外なしに、みんな「23」を警官と間違えて金を押しつけて逃げるのです。それはまるで、万人が万人印刷したような行動だそうです。
 二人はオテル・エルミタアジュの三六号室に同棲していて、今でもときどきこの手を用いています。公然の秘密のようなものですが、個人の生計に関与するほど、モナコの警察は暇ではないと言います。これで彼女は要求するだけのコカインを楽しみ、「23」はまた毎晩の「二十三」の軍資にこと欠かないわけでしょう。
 忘れました! それ以来、女は「七夫人」として知られているのです。何でもその最初の晩が七日だったそうで、彼女は若い燕《つばめ》の「23」に倣って、それから7にばかり賭けることにしたのです。が、どうせゲエムはニの次ぎで、腕を掴んで倒れるための男を物色しに、一月に二、三度キャジノに出現するだけのことですが――。
 コロン製鋲会社の社長・亜米利加《アメリカ》の
前へ 次へ
全66ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング