ホにある。そこでは近代的に洗練された物質が――そして物質だけが――公認の王位に就いて二大陸の名士連《セレブレティス》を踊らせているのだ。どうしてここへ「自動車一台持って歩かない普通《カマン》の旅客」として汽車で着くことが出来よう! 停車場から来た人はホテルでも直ぐに二流の客と踏んでしまうに違いないのだ。それはこの愉快に軽跳な物質慾の環境への驚くべき冒涜でさえもあり得るのだから、しごく無理もないことだと私は自分に言いきかせた。そこでこうして自家用自動車を自家用運転手に運転させて巴里《パリー》からすっ[#「すっ」に傍点]飛ばして来たもののごとく見せかけてホテルの玄関へ乗りつける必要があったのだ。そしてそのためには、例《たと》え空っぽでも衣裳鞄の一つや二つは余計に持ち、ゴルフ道具と乗馬服だけはゴルフと乗馬に何らの関係なく、忘れることを許されないのである。これではじめてホテルも真剣に相手にしてくれるだろうし、私たちも「上品な自信」をもって周囲の華麗さに接することが出来るだろうし、誰とでもほほえみ交して最近のHITである芝居の評判を話題に上《のぼ》せられるだろうし、そうしてモンテ・カアロの中心に
前へ 次へ
全66ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング