sだと言って、彼女は黒の制服をつけた真面目顔の運転手を悦《よろこ》んだ。私が名を訊いたら彼は「第十九番《ヌメロ・デズヌウフ》」とだけ答えた。こうして19が彼の呼称《よびな》になったのだ。そしてこの黄瑪瑙《きめのう》の巻煙草《シガレット》パイプのように粋《シック》なランチャが、これから三週間私たちの自用車としてモンテ・カアロ公園《ジャルダン》の小径《こみち》に park されるであろうし、19は三週間のあいだ私達が「ほんとに彼男《あれ》だけは私たちが掘り出した宝石《ジュエル》です」と言い得る、身綺麗《みぎれい》で小気《こき》の利いた“My Good Man”となることであろう。
『僕らはこの車で、君に運転させて真直ぐ巴里《パリー》からドライヴして来た気でこれからモンテ・キャアロへ乗り込むんだから、君も万事そのつもりで。』
 私が言った。妻がつけ足した。
『そうしてムシュウ19はあたし達んところに三年――いいえ、足掛《あしかけ》四年働いている忠実な忠実な運転手さんなの。この頃の召使いは腰が浮いてて困るんですけれど、あなただけは別なんですって。』
『そうだ。是非そういう風に考えていてもらいた
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