サこの自動車には、どう見ても富豪の自家用としか思えないすべての装飾と設備が行き届いていた。支配人が私たちを案内した陳列場《ショウ・ルウム》には、まるでエトワルヘ向って右側のシャンゼリゼの窓のように、高慢な感情の機械動物がすっかりお化粧を済まして思い思いの媚態《コケトリイ》を凝らしていた。それはちょうど貴族の女たちによって育てられて来た犬の展覧会と言った、高価な女性的な感じだった。その、みどり色の垂幕を背景にあちこちに近代的光輝を放っている新鋭の自動車のあいだを、私達は全員堵列礼に臨む東洋艦隊の艦長夫妻のように見て廻った。
アルプス国境防備兵のようにしっかりした足許と精悍な長身とを持つ伊太利《イタリー》製のランチャ。
麒麟《きりん》のように清楚なエスパノ・スイザ。
撫でながら走らせることを必要とする誇りの高いワザン。
それから何もかも承知している第一人者の鷹揚な微笑を忘れないロウルス・ロイス。
私達は彼女の好みで鼻の尖《とが》ったランチャを選んだ。三週間の契約だった。それはスポウツ・カアのように背の低い、真っ黄いろに装った稀代《きだい》の伊達者だった。黒と黄の配合はこの週間の流
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