tフェラの別荘へ出かけることが出来るのだった。その途中モンテ・カアロにとまって、カフェ・ドュ・パリの前で私の妻のレンズをじろりと白眼《にら》んでそれでも彼女がすなっぷ[#「すなっぷ」に傍点]するまで周囲の人々との会話を中止していられた。ロイド・ジョウジの一家族は土曜日のキャンヌのレディ・ブウトの晩餐会を振り出しに、舞踏と招待とリセプションとが十五分おきに全旅程を埋めつくしていた。ひそかにコンミュニズムを信奉する一青年記者が、部屋つきの給仕に化けてその貸切室へ出入し、十五分ごとに彼らの言動のすべてを倫敦《ロンドン》本社へ直通電話していた。しかし新聞には彼の言わないことばかり出るといって、召使用|昇降機《エレベーター》のなかで非常に悄気《しょげ》ている記者を私は見たことがある。君も早く感想兼自叙伝の印税で家内じゅうで特別旅行をするがいいと私は彼を慰藉《いしゃ》しておいた。が、このぶるじょあ的|諧謔《かいぎゃく》は彼には通じないようだった。そしてロイド・ジョウジは依然としていつ万年筆と記念芳名録を突きつけられて署名を求められても困らないように右の手だけ手袋をせずにオテル・パリの廊下で杖をつい
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