トはじめてすっかり借金を返したり、極東日本の一旅行者夫妻が良人《おっと》から妻への小切手を振出して夫妻同伴で銀行へタキシしたり、市加古《シカゴ》豚肉王の夫人が郷里の豚肉王に宛てた軍資追徴の至急報を片手に、山下のモンテ・カアロ本局で同情すべきヒステリイ発作のため痛くないように卒倒したり――。
その電文にはこうある。
[#ここから2字下げ]
Fifi has no biscuit.
[#ここで字下げ終わり]
地上唯一の運命のALHAMBRA、このモンテ――一ぱんには洒落てカアロを略して――の賭博殿堂へ、私――GEO・タニイ――と、彼の蝶形|襟飾《ネクタイ》と白|襯衣《シャツ》の胸板とが、いま排他的に社交界めかして舞台しているのである。マダム・タニイは巴里《パリー》トロンシェ街の衣裳屋ポウラン夫人が自分で裁断鋏《カッタアス》をふるった蝉《せみ》の羽にシシリイ島の夕陽の燃えてる夜宴服《イヴニング》をくしゃくしゃにして、むき出しの細い二の腕へ粒々をこさえたまんまさっさ[#「さっさ」に傍点]とルウレット台のひとつへ埋没してしまった。
2
火曜日。モンテ・カアロ。Hotel de
前へ
次へ
全66ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング