jス絨毯なのである。それを踏んで、あたしいま香料浴を済ましてきたところなの、と彼女の全身の雰囲気が大声に公表している、中年近い女が来て私の横にならんだ。肘《ひじ》が私に触れて、彼女が言った。
『数は? 何が出て?』
答えるまえに、私はゆっくりとその女を研究した。
近東型の広い紺いろの顔が、八月の地中海が誇る銀灰色のさざなみによって風景画的に装飾されていた。私はきのうモナコの岩鼻から見物したモウタ・ボウトの国際競争を聯想しなければならなかった。しかし私は、そのことは彼女に話さなかった。彼女の臙脂《えんじ》色の満唇《フル・リプス》と黒いヴェネツィア笹絹の夜礼服とが、いつかラトヴィヤのホテルで前菜《オウドゥブル》に食べた、私の大好きな二種の露西亜塩筋子《ロシアキャヴィア》の附け合せと同じ効果を出していたからだ。私は鋭利な食慾を感じた。そして食慾はいつも私を無言にする。で、私は私の視線を彼女の下部に投げることによって、この、自分の娘よりも若いに相違ない中婆さんを慰楽《アミュウズ》しようと試みた。
彼女の属する社会層は瞬間の私にとって完全な神秘だった。が、私はいま何よりもじぶんのいる場処を
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