ホにある。そこでは近代的に洗練された物質が――そして物質だけが――公認の王位に就いて二大陸の名士連《セレブレティス》を踊らせているのだ。どうしてここへ「自動車一台持って歩かない普通《カマン》の旅客」として汽車で着くことが出来よう! 停車場から来た人はホテルでも直ぐに二流の客と踏んでしまうに違いないのだ。それはこの愉快に軽跳な物質慾の環境への驚くべき冒涜でさえもあり得るのだから、しごく無理もないことだと私は自分に言いきかせた。そこでこうして自家用自動車を自家用運転手に運転させて巴里《パリー》からすっ[#「すっ」に傍点]飛ばして来たもののごとく見せかけてホテルの玄関へ乗りつける必要があったのだ。そしてそのためには、例《たと》え空っぽでも衣裳鞄の一つや二つは余計に持ち、ゴルフ道具と乗馬服だけはゴルフと乗馬に何らの関係なく、忘れることを許されないのである。これではじめてホテルも真剣に相手にしてくれるだろうし、私たちも「上品な自信」をもって周囲の華麗さに接することが出来るだろうし、誰とでもほほえみ交して最近のHITである芝居の評判を話題に上《のぼ》せられるだろうし、そうしてモンテ・カアロの中心に潜り込んでその柱石《キャプテン》たちと混合《ミキサア》し、彼らのあいだに流行するカクテルの秘密をさえも知り、彼等の愛好する冗句《ジョウク》に哄笑し、かれらの doings をDOすることが可能であろう。つまりこれから欧羅巴《ヨーロッパ》最前線の「|速い一団《ファスト・セット》」に私達も参加しようとしているのだ。Tra−la−la !
 ホテルへはマルセイユから電報してある。
“Coming this evening. Mr. and Mrs. Tany.”
 私は満足の眼でもう一度身辺を検査した。
 この、私達とモンテ・カアロとを最も効果的に結びつけるために、私たちはその目的で取っておいた別経済の三分の一を今度の服装と持物と所謂《いわゆる》「|おもて見《フロウ卜・シャウ》」の全部へ新しく投資したのである。そしてこの瞬間の発明になるダンスのステップは、出て来る前にことごとくマスタアしたはずだ。しかも、私達のような人のためにひそかに存在しているあのアンティブの車庫を利用して、競馬馬のようにスマアトなこのランチャと、裁判官のように厳粛な「19」とを手に入れることに成功したではないか、何がほか
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