sつら》の皮だ。もっとも、ほんとに仏蘭西製のこの種の豪の女《モノ》が世界じゅうに散らばってることも満更《まんざら》うそ[#「うそ」に傍点]じゃあないんだが、その多くは、女中つきで倶楽部《くらぶ》なんかに出没するグラン・オペラ的な連中で、このぽるとがる国リスボン市ばいろ・あるとあたりで船乗りの相手をしてる「ふらんす女・巴里《パリー》っ児《こ》」は、テレサをはじめ、このとおり十中の十までFAKEである。へんな話だが、こんなことで国際聯盟あたりが仏蘭西に嫌味を言ったりするんだから、ふらんすにとっては飛んだ迷惑だろう。だいたい仏蘭西の女、ことに巴里女《パリジェンヌ》なんて、そんな原始的に荒っぽい冒険家じゃあないんで、たとえば巴里市内の娼婦だって、大部分はチェッコ・スロヴァキアの女・波蘭土《ポーランド》の女・ぶるがりあの女・葡萄牙《ポルトガル》の女なんかなんだが、それらのすべてが、この「自称ふらんす女」と同一の心理と理由から、本場の巴里では、言い合わしたようにことごとく「西班牙《スペイン》女」と自己広告することにきめてるから、面白い。つまり巴里の売春婦で眼の黒い女・碧い女・茶色の女・髪の毛の黒い女・それほど黒くもない女・むしろ赤ちゃけた女、要するにすべての女が、すこしでも外国めいた点地《タッチ》があると人工的にそこを強調し、どう捜しても無いやつ[#「やつ」に傍点]は仕方がないから無理にも作って――自由な仏蘭西《フランス》語を商用としてだけ御丁寧に不自由らしく片ことで話したりなど――どれもこれも、先天的俳優能力をもって器用にすぺいん生れに化けすましてしまう。だから仏蘭西の名誉としちゃあ、ここでまあ幾らか帳消しになる勘定かも知れない。BAH!
ところで、問題は「ふらんす女」テレサだが――。
そのテレサが、身体《からだ》ぜんたいに白粉《おしろい》を塗りこむ。
何のためにそんな莫迦《ばか》なことをするかというと、「マルガリイダの家」では、船員を招いて博奕《ばくち》をさせ――これはいつも船乗りらしい簡単な歌留多《かるた》の勝負にきまってたが――そして単に賞品として、勝った男に一晩のテレサをあたえるという組織だったから、言わばテレサは、この場合一個の物品に過ぎない。したがって、それを目的に金を賭けるくらいだから、客のほうも前もって詳しく現物を見ておきたい。なんかと権利を主張するかも知れないし、マルガリイダ婆さんはまた、はじめに調べてもらわないと気が済まないなどと体《てい》のいいことを口実に、じつは、ただテレサの皮膚で一そう男たちの賭博心を焚きつけるための手段にすぎないんだが、その夜の客が詰めかけてるところ、からだ中に化粧をしたテレサを真っぱだかにして、「はい、これで御座います、HO・HO・HO!」なんかと挨拶に出すのだ。恐ろしいまでにあらゆる無恥と醜行に慣れ切ってるテレサが、その白熊みたいな莫大な裸形《らぎょう》と濡れた微笑とを運び入れて、そこで明光のもとに多勢の船員たちからどんな個人的な下検査を、平気で、AYE! むしろ大得意で受けることか。そして唯々諾《いいだく》としていかなる姿態《ポウズ》をこの半痴呆性の女がとって見せるか? つぎにまた、それによって刺激された船乗りたちが、何と、この女を所有するためなら「|血だらけな《ブラッディ》」給料の二、三個月分ぐらい前借しても構わない旺盛さをもって、ばくち[#「ばくち」に傍点]に熱中し出すか――それは電灯と、偉大な舞台監督マルガリイダと and GOD・KNOWS!
「マルガリイダの家」は、ばいろ・あるとの一ばん奥まったはずれだった。白っぽい石壁に赤瓦《あかがわら》を置いた、そこらに多い建物のひとつで、這入ると、正面の廊下を挟んで左右に幾つも小さな部屋が並んでた。それがみんないわゆる歌留多《かるた》場だった。どんなにお客が来ても、夜中の二時まではお酒を売って――これがまたマルガリイダの儲けだったが――釣っておいて、二時かっきり[#「かっきり」に傍点]に、例のテレサのお目見得を挙行する。それが済むと直ぐ、マルガリイダが「|賭け札《テップ》」を売り出す。これは赤・白・黒の三種に塗られた円い木片で、赤のが五十エスクウド――約五円――白は三十エスクウド――ざっと三円――一円どこの十エスクウドのは黒の札《テップ》だった。つまり、どこの博奕場とも同じに直接現金でやり取りするんではなく、一応はじめに金をこの「|賭け札《テップ》」に更《か》えて、これで勝負を争うのだ。そしてあとで清算してそれぞれまた現金に直すわけだが、ここでは、いくら馬鹿勝ちしたって一文にもならない。そのかわりテレサを取る。言わば、金を札《テップ》に換えてやった額だけ、そっくりそのまま家《ハウス》の所得なんだから、誰が勝とうが負けようが、あとは卓
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