mれないし、マルガリイダ婆さんはまた、はじめに調べてもらわないと気が済まないなどと体《てい》のいいことを口実に、じつは、ただテレサの皮膚で一そう男たちの賭博心を焚きつけるための手段にすぎないんだが、その夜の客が詰めかけてるところ、からだ中に化粧をしたテレサを真っぱだかにして、「はい、これで御座います、HO・HO・HO!」なんかと挨拶に出すのだ。恐ろしいまでにあらゆる無恥と醜行に慣れ切ってるテレサが、その白熊みたいな莫大な裸形《らぎょう》と濡れた微笑とを運び入れて、そこで明光のもとに多勢の船員たちからどんな個人的な下検査を、平気で、AYE! むしろ大得意で受けることか。そして唯々諾《いいだく》としていかなる姿態《ポウズ》をこの半痴呆性の女がとって見せるか? つぎにまた、それによって刺激された船乗りたちが、何と、この女を所有するためなら「|血だらけな《ブラッディ》」給料の二、三個月分ぐらい前借しても構わない旺盛さをもって、ばくち[#「ばくち」に傍点]に熱中し出すか――それは電灯と、偉大な舞台監督マルガリイダと and GOD・KNOWS!
「マルガリイダの家」は、ばいろ・あるとの一ばん奥まったはずれだった。白っぽい石壁に赤瓦《あかがわら》を置いた、そこらに多い建物のひとつで、這入ると、正面の廊下を挟んで左右に幾つも小さな部屋が並んでた。それがみんないわゆる歌留多《かるた》場だった。どんなにお客が来ても、夜中の二時まではお酒を売って――これがまたマルガリイダの儲けだったが――釣っておいて、二時かっきり[#「かっきり」に傍点]に、例のテレサのお目見得を挙行する。それが済むと直ぐ、マルガリイダが「|賭け札《テップ》」を売り出す。これは赤・白・黒の三種に塗られた円い木片で、赤のが五十エスクウド――約五円――白は三十エスクウド――ざっと三円――一円どこの十エスクウドのは黒の札《テップ》だった。つまり、どこの博奕場とも同じに直接現金でやり取りするんではなく、一応はじめに金をこの「|賭け札《テップ》」に更《か》えて、これで勝負を争うのだ。そしてあとで清算してそれぞれまた現金に直すわけだが、ここでは、いくら馬鹿勝ちしたって一文にもならない。そのかわりテレサを取る。言わば、金を札《テップ》に換えてやった額だけ、そっくりそのまま家《ハウス》の所得なんだから、誰が勝とうが負けようが、あとは卓
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