ェてえ!
おぶりがど!
おぶりがど!
おぶりがど!
[#ここで字下げ終わり]
節《ふし》くれ立った指に、幾つも並べて嵌《は》めた十八金の大指輪――これは伊達《だて》ばかりじゃない。めり[#「めり」に傍点]拳を喰《くら》わす時の実用のため――が、あちこちに毒々しくちら[#「ちら」に傍点]ついて、ぺっ[#「ぺっ」に傍点]と唾をして靴でこすりながら――。
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えっ! |腹の虫を殺してやれ《パラ・マタアル・ウ・ビッショ》!
[#ここで字下げ終わり]
誰もかれも、この呪文を合図に、威勢よく「燃える水」を流しこむのだ。そうだ! この強いやつで腹の虫を殺せ!
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えっ! ぱら・またある・う・びっしょ!
えっ! ぱら・またある・う・びっしょ!
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とん、とんと酒台に鳴るから[#「から」に傍点]こっぷの音。
――こう明るいところへ出てみると、リンピイ・リンプは若いくせに老人《オウルド・マン》だった。全く、ちょっと年齢のはっきりしないリンピイだった。ひどく老《ふ》けても見えたし、そうかと思うとかなり若いようでもあったが、たぶん四十五、六らしかった。よれよれ[#「よれよれ」に傍点]の茶の背広を着て、洋襟《カラア》のかわりに首のまわりに青い絹を結んで端をだらり[#「だらり」に傍点]と垂らしてるのが、恐らく前世紀的でもあったし、また観察によっては、領地巡視中の英吉利貴族《イギリスロウド》といった場外れの効果がないでもなかった。じっさい、いささか「ゴルフ・乗馬・午後の茶」の筆触《タッチ》をつけて古風に気取ってみたいのが、この潮臭い無頼漢|びっこ《リンピイ》・リンプの趣味らしかった。しかし、その不幸な歩行機関の支障と、あまぞん特産のポケット猿みたいな小さな顔と、鼻からロへかけて間歇的にひくひく[#「ひくひく」に傍点]する筋肉|痙攣《けいれん》と、悪疾のため舌の絡む語調とが、可哀そうな彼の努力のすべてを裏切って、親愛なリンピイ・リンプを、やっぱりただの「りすぼん埠頭の幽霊」|びっこ《リンピイ》・リンプ以上の何ものにも買わせていなかった。つまり事実は、彼リンピイは「港の Old Man」に過ぎなかったのだ。
船で|おやじ《オウルド・マン》と言うと船長のことだ。そして、船から上って陸《おか》で|おやじさん《オウルド・マン》といえば
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