ぎ寄せる――とこういう手順だが、どうせこのほうは、まあ、小手調べのつもりだし、こっちでも幾らかの利を見たいなんてそんなリンピイでもないから、持ってく日用品なんかちっとも売れなくても困らないんだけれど、それが妙なことには飛ぶように売れて、リンピイはいつも空《から》の鞄と、反比例に充満したぽけっと[#「ぽけっと」に傍点]とを伴《つ》れて陸へ帰るのがつねだった。じゃあどうしてそうリンピイの商品に限って捌《さば》けが早かったかというと、それは何も彼の小売的商才の致すところではなく、現在あとで僕がこの役目を受持つようになってからも、品物だけは何らの渋滞なくどんどん[#「どんどん」に傍点]売れてった事実に徴しても判るとおりに、商品それ自体に、「これに羽が生えて売れなければベイブ・ルースは三振してカロル親王殿下がルウマニアの王位に就く」と言ったふうな、リンピイ一流の|狙い《ヒット》と仕掛《卜リック》が潜ませてあったからだ。では、その手品の種は?――となると、これが本筋の「|何か袖の奥に《サムシング・アップ・イン・ゼ・スリイヴ》」の重要な一部なんだから、手法の教えるところに従い、僕としてはもうすこし取っておかなければならない。
じっさいリンピイは、ついこないだまで、この両方の「しっぷ・ちゃん」を一人で兼ねて来ていたんだが、比較的繊細――何と貴族的に!――な彼の体質と健康がその激労を許可しなかったし、それに、幾分財政的余裕も出来かけたので、誰か「|鳩の英語《ピジョン・イングリシ》」が話せて自分の片腕になるやつ[#「やつ」に傍点]があったら、はじめの日用品のしっぷ・ちゃんだけそいつに任せて船の探りを入れさせることにしてもいい――ちょうどこう考えてたリンピイの眼前へ、幸運にも僕という「夜の波止場《カイス》の常習浮浪犯」が現れたのだ。
この、リンピイと僕――ジョウジ・タニイ――との最初の劇的面会はあとの頁に入れるつもりだが、一口には、彼が好機――僕にとって――を提出《オファ》して、僕が即座にそれを把握《グラブ》したほど、それほど勇敢で利口《スマアト》だったというだけのことだ。じゃ、一たい何だってそんなことが「好機」かと言うと、これなしにはこの話も存在しなかったろうし、第一、僕としちゃあ得がたい冒険《アドヴェンチュア》を実行したわけで、全くのところ、さんざ歩き廻った末やっと棒にぶつかっ
前へ
次へ
全40ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング