逅ツ白く冷たく見物していた――というので、これがひどく有名になり、それからこの通りを主馬頭町《カイ・デ・モンテイロ》と呼ぶにいたった。
こういう因縁つきの町の、おまけに私の居る家というのが、取りも直さずその主馬頭《モンテイロ》の旧邸なんだから、夜中にたびたび窓の下でごそごそ[#「ごそごそ」に傍点]人声がする。さては騎士だの侍従だの詩人だの、例の主馬頭夫人《モンテイロセニョラ》の魅笑に惹き寄せられた恋のすぺいんの亡霊たちが何か感違いして現れたとみえる――こう思ってGABAと寝台を跳《は》ね下りた私が、せいぜい歌劇的に窓へ進んで、そのむかしセニョラがしたであろうように窓を開いて見下ろすと――。
マドリッドは孤丘の上に建っている。連日の青天に白く乾いた遥かの陸橋に新月がかかって、建築中の電話会社《カンパニア・テレフォニカ》の足場の下を、朝市場へ野菜を運ぶ驢馬の長列がBO・BOと泣いて通り過ぎつつあるばかり――芝居《テアトロ》帰りのドン・ファン・テノリオ、夜のドン・キホウテとサンチョ・パンザの人影が霧にぼやけて、聖《サン》フランシスコ寺院の鐘も鳴らず、一晩じゅう戸外を笑い歩くマドリッドの町
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