フ間も私と親分は「故国にほん[#「にほん」に傍点]のこと」、私の「今後の身の振り方」等々々につき非常にしんみり[#「しんみり」に傍点]と語らいをかわしているのだ。
『この頃の若い人は意気地がねえな。仕様がねえじゃねえか。石炭船ぐれえ辛棒が出来なくちゃあ――。』
『どうも済みません。』
『ははははは。済みませんじゃないぜ。が、まあ、若いうちは何をしてもいいさ。困ってるならうちへ来なさい。何とかするし、用もないことはないから――。』
愉快になったアンリの親分は、心から「この頃の若い人」を持てあましてるように、舌打ちのかわりにぐい[#「ぐい」に傍点]と私のMEDOC――ボルドオ赤《ルウジ》――をあおりつけてぺっ[#「ぺっ」に傍点]と唾をした。
そうすると、巴里《パリー》の午前二時はほかの町の午後二時だ。LA・TOTOの暗い電灯に仏蘭西《フランス》語の発音とベネデクティンの香《におい》が絡み、「|工業の騎士《ナイツ・オヴ・インダストリイ》」の労働者たちの赭《あか》ら顔を Gauloises の煙りがぼやかし、誰かの吹く普仏戦争当時の軍歌の口笛に客の足踏みが一せいに揃い、戸外《そと》には、ち
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