Gな空気」もどこかへすう[#「すう」に傍点]と消えてしまって、かわりにそこに、「さまよえる老|猶太《ユダヤ》人」らしい淋しい影が一そう拡がり、見るまに彼の全人格と身辺を占領して、この長ばなしを語りおわったとき、「大親分アンリ・アラキ」はただの見すぼらしい日本人の一お爺さんに還元していた。
 眼をしょぼ[#「しょぼ」に傍点]つかせながらべっ[#「べっ」に傍点]と唾をして彼は結んだ。
『――と言ったふうにね、いまお話《はなし》したような商売《しょうべえ》を始めれあ儲かること疑いなしでさあ。それというのが、巴里《パリー》というところはどういうものか昔からそんなふうに思われていて、早《はえ》え話が、巴里にゃあ物凄《ものすげ》え場処があるってんで、英吉利《イギリス》人やめりけん[#「めりけん」に傍点]なんか、汗水流して稼いだ金ではるばるそいつを見にやって来るてえくれえのもんです。だからさ、見たがるものを見せてやるために、ちょいとね、今の話のようなすげえ[#「すげえ」に傍点]ところを拵《こさ》えといて、その物欲しそうな面《つら》の外国の金持ちを集めてしこたま[#「しこたま」に傍点]ふんだくって一晩
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