Eフランセイズのミリイ・ブウルダンだの、いま出てきますから一々名前を申しあげます。ただしかし、面をかぶっていますが、それは先刻《さっき》もお許しを願ったとおり、下っ端《ぱ》ではないのですから、これだけあどうも――。』
『なに! ベクマンやブウルダンなんかまで? そいつあたいしたもんだ。うむなるほどね。それあ面ぐらいは我慢しなけりゃあ――。』
 それに同意して、全員しきりにうなずいているところへ、舞台の下で急に蓄音機が鳴りだすと同時に、見物席の電気が消えて音もなく幕があがった。
 脚下灯《きゃっかとう》のまえに二十人ほどの女優が二列にならんでいる。
 黒の靴下に高踵靴《ハイヒイル》だけの着付けだった。すこし背《せい》の低い前列は、それに一様に黒い毛皮の襟巻《えりまき》をして、つば[#「つば」に傍点]の広い黒い帽子をかぶっていた。せいの高い後列の女優たちは、絹高帽《シルクハット》に鞭《むち》のような細身の洋杖《ステッキ》を持っていた。前が「女」、うしろが「男」の組らしい。それがみんな、靴と靴下と帽子のほかは完全に裸だった。その靴も靴下も帽子も、「女」の組の毛皮《ショオル》も、「男」の組の洋
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