ノ黒いぽちぽち[#「ぽちぽち」に傍点]の模様があって、その点々に、眼に見えないほどの小さな穴が開いている。そこへ外側から一つずつ覗き眼鏡みたいなものが取りつけてあるから、マアセルの有する全部は各人の鼻っ先だ。
親分は廊下に立って待っているんだが、出発に際しての彼の心配は全然|杞憂《きゆう》に帰して、隊員は、しわぶき[#「しわぶき」に傍点]どころか呼吸《いき》を凝らしている。鬚と奥さんを持つ紳士にとって、女の生活なんてとっくに卒業して飽きあきしてるはずなんだが、度々いうとおり相手が「モナコの岸」の女王なのと、その、誰も見てるものがないという確信で、着物と一しょにすべての気取りを除去したあとの赤裸々さと、また別の興趣が期待出来るとみえて、こうしてみんなじっと覗きながら、固唾《かたず》を飲んで待ち構えた。ところへ――前に言ったように、「モナコの岸」から美女マルセルが帰って来て、竹の子みたいに一枚々々着衣を脱して、そうして、そうして、ええと――どこで話が後退したんだったけな?
――そうだ、マアセルは今や寝台に腰かけてするする[#「するする」に傍点]と靴をぬいでいる――。
やがて、ざあっ[
前へ
次へ
全68ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング