ヨ行くかということもわざと明言しません。好奇心のためです。ただ必要上、最初の一つだけをここにお話ししましょう――。すでにあなた方も御存じの通り、巴里浅草《モンマルトル》のレストラン千客万来「モナコの岸」は、昔から美人女給の大軍を擁し、それで客を惹いてるので有名でありまするが、そのなかでも美人中の美人として令名一世を押しつけ、「モンマルトルのクレオパトラ」と呼ばれているのが、マアセルと申す当年取って二十五、六――割引無し――のどっちかというと大柄な、素晴らしい美人でありまして――。』
 と、つまり、マアセルに関して、はじめに私が説明した全部は、そっくりこの時の親分の言なんだが、えへん! と親分はここで咳払い――もちろん流暢な仏蘭西語で――をして、あとを続けた。
『で、この万人――いや、厳正には万男――渇仰《かつごう》の的たるマアセルの私生活をこっそり[#「こっそり」に傍点]お見せ申すのが、本計画の第一歩でありまするが、前もって特に御注意申し上げたい一事は、私はマアセルの泊っているアパルトマンの夜番に莫大な金を掴ませて特別にその仕掛けをほどこし、それでこうして皆様をお伴《つ》れ申すことも出
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