ィり今やあたらしく生れ出ようとしている英仏合同一大毛織物会社の設立相談会があってこと[#「こと」に傍点]によると今夜は帰らないかも、たいていは遅くなっても帰るつもりだが、或いは、ひょっ[#「ひょっ」に傍点]とすると帰らないかも知れないが決して心配しないで先に寝てるように」だの、やれ「今の電話でちょっとシャルロアへ出張しなくちゃならない。商用だ。大急ぎだ。多分あすの朝は帰れるだろう」ことの、やれ「土耳古《トルコ》の伯爵に招待された」ことの「セルビヤの王子が来た」ことのと、その他|曰《いわ》く何、曰くなにと、それぞれ大奮闘の末、やっとのことで銘々の「マギイ」を鎮撫《ちんぶ》納得|誤魔化《ごまか》し果せた「ジグス」たちが、期待と覚悟と解放のよろこびに燃え立ちながら、こうしてここ、音に聞くアレキサンドル橋の袂《たもと》で、ある者はやたらに煙草をふかし、或いはしきりに欄干から唾をし、他はいや[#「いや」に傍点]に遊子ぶって中空に冴えわたる月を眺めたりなんかしてると、なかにひとり人見知りをしないお饒舌《しゃべ》りなのがいて、
『じっさい巴里《パリー》にあ大変なところがあるそうですからなあ――それに
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