驕B
 朝なら「|お早う《ボン・ジュウル》」。
 晩なら「|今晩は《ボン・スワ》」と。
 ばかに交通巡査を眼の仇敵《かたき》にしてるようだが、全くこんなふうなんだから、自動車にはいつだって轢《ひ》かれるほうが悪いんで、そしてこのプラス・ドュ・ラ・コンコルドを轢かれずに渡った人はあんまりない。私は中央の島みたいなところを飛びとびに辿ったから轢かれなかった。轢かれちゃったんじゃあこの話が出来ないから――。
 そこで、これからの一本道が名にし負うシャンゼリゼエなんだが、こいつがまた凱旋門まで一|哩《マイル》と四分の一もある、おまけにいや[#「いや」に傍点]に真直ぐだから、気のせいか、なお長い。
 なんて、てくり[#「てくり」に傍点]ながらそんなにのべつ[#「のべつ」に傍点]愚痴を溢《こぼ》すくらいなら、早くタキシにでも乗ったらいいじゃないかと思うだろうが、いくら私が酔狂だってこうして郵便脚夫みたいに歩きたかないけれど、それがそうは往かないと言うわけは、じつは、身をもって歩き廻らない以上、どうにもならない役目を一つ、ゆうべ私は親分のアンリ・アラキから仰せつかっているのである。
 だから今日、こ
前へ 次へ
全68ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング