のあくほど感に耐えて見ているのだ。氏を通じて、みんな日本に関する色々な質問を提出する。それがかなり高級で、わりにピントが合っているから、一々いささかの吹聴《ふいちょう》意識をもって答えてやる。
これよりさき、彼女を包囲した婦人達のあいだには早くも語学のお稽古がはじまっていた。
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サヨナラ――ヒュヴァステ
アリガト――キウィイドス!
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『あれ。』
と窓をさして、
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月は――クウ。
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芬蘭土《フィンランド》語を三つ覚える。
アントレアを過ぎ、ヴィポリの町で招かれて私たちはヴァンテカイネン氏の客となる。そしてその深夜十三世紀の円塔《ピヨリア・トルニ》内のキャバレで、貧しい音楽に悲しいまでにたのしげに踊り狂う兵士とその恋人や、売子娘とその相手や、町の女、町の男達をぼんやりと眺めながら――異国者はつねに浮気だ――私はすでに帰りの旅を思っていた。
RIGHTO! S・Sリュウグン号でエストニアのリヴァル経由、独逸《ドイツ》ステテン港へ上ろう、と。
二昼夜のバルチック海がこれから私たちの行手にある
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