いる。可哀そうで、まあ君、これだけ見せてもらえばたくさんです。そう悲観したもうな、と慰めたくなる。
 その他、ついでに感心すべきものを附記すると、S・Sデゴロという船で一夕の島めぐり。夕陽をとかす水、島、岩、松、白樺、子供、葦《あし》を渡る風、小桟橋、「郊外の住宅へ帰る」ようにデゴロビビウだのヴォドだのイグロなんかという恐ろしげな名の島へ上陸して行くヘルシンキの勤人《つとめにん》、家の窓からそれを見て小径《こみち》を駈けてくる若い細君、船員が岸の箱へ押し込んで廻る夕刊と郵便物、今朝《けさ》頼んでおいた砂糖やめりけん粉の買物を船長さんから受取るべく船を待っている主婦たち――ここにも同じょうな人間の生活が営まれていることをいまさらのようにしみじみと思わせられる。
 それから、こんどは美術館《アテネアム》に感心しなければならない。ミレイとコロウとドガが紛れこんで来ている。
 もう一つ、お土産品を売るというんで自他ともに許しているはずのミカエル街ピルチの店に、売子と埃と好意と空気の他何ひとつ商品のないのに最後に感心。
 近処に常設館がふたつあって、夜になると不思議にも電灯がともる。一つを「ピカ
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