民軍の制度が不必要と思われるほど異常に発達し、四箇月の軍事教育ののちに属する国民軍なる大きな団体が、政治的にも社会的にも力を持っている。これに対立して露系共産党の策謀あり、この北陬《ほくすう》の小国にもそれぞれの問題と事件と悩みがあるのだ。何だか「国家」の真似事をしてるようで妙に可愛く微笑みたくなるが、しかし、同時にその素朴さ、真摯《しんし》な人心、進歩的な態度――約束されている、フィンランドの将来には何かしら健全で清新なものが――気がする。
 が、世界で一ばん古い独立国からの旅人の眼に、この世界で一番あたらしい独立国は、ただ雪解けの荒野を当てもなくさまようようにへんに儚《はか》なく映ったのは仕方ないのだろう。歴史的、そして地理的関係上、瑞典《スエーデン》の影響をいたるところに見受けるのはいうまでもない。国語もふたつ使われて、上流と知識階級はスウェイデン語を話し、他はフィニッシである。だから町の名なんかすべて二つの言葉で書いてある。語尾に街《ガタン》とついているのが瑞典《スエーデン》語、おなじく何なに街《カツ》とあるのが、芬蘭土《フィンランド》語で、地図も看板もそのとおりだから、旅行者
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