でもはいれて、間代だけは国家もちで生活出来るのだ。つまり、よく五十年も我慢した、両方とも豪《えら》い! というんで、国家的勇士としての栄誉と待遇をあたえるわけなんだろう。これを目的にして国じゅうの「われなべにとじぶた」が鍋も蓋もじっ[#「じっ」に傍点]として、あんまり「自由」を求めたり急に「自由意識にめざめ」たりしないとすれば、人間オスカア二世は、仲なかどうして世話なおやじだったと言われなければならない。
 塔をおり、木の下路のうすやみをくぐってスカンセンを出る。ある日、ぶらぶら町を歩いている。
 と、突然歩道に立ちどまった彼女が眼を円くして言った。
『あらっ! おみおつけ[#「おみおつけ」に傍点]のにおいがする!』
 とこれはじつに容易ならぬ発表である。私は思わず急《せ》きこんだ。
『え? ほんとうかい――。』
 が、ひるがえって常識に叩くに、このストックホルム市の真ん中にぷうんとお味噌の香《におい》がするということは首肯《しゅこう》出来ない。しかし、この彼女の一言は俄《にわ》かに私たちふたりを駆って発作的ノスタルジアの底に突き落すに充分だった。それによって私は、北の都の中央にあって
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