する。
広い墓地内をうろうろしてようよう探し当てたイブセンの墓は、白樺の疎林を背に生垣と鉄鎖の柵をめぐらした広さ六坪ほどの芝生の敷地に、左右の立木に挟まれて高さ三|間《げん》あまりの上の尖《とが》った黒い石が立っていた。石の表面に鉄槌《てっつい》の彫刻、根にダリヤとデエジイと薔薇と百合の花束をりぼん[#「りぼん」に傍点]でしばった鉄の鋳物、下の平石に HENRIK IBSEN と読める。右に祭壇、左に夫人の墓石――枯葉が散りかかって、ごみのような小さな羽虫《はむし》が一めんに飛んでいた。
すこし離れた小高いところに、ビョルンソンの墓。これは巨大な平面石が、白樺の大木の下に半分|蔦《つた》におおわれて倒れている風変りなものだ。階段が上部をかこみ、石の旗が下を飾って、中央に Bjornson, 1832−1910 と彫ってある。すべてが立体的に凝った感じである。
小さな松の林に小鳥が下りて、朝日に葵《あおい》が咲いていた。土の香と秋晴の微風。参詣の人がちらほら見えて、喪服の女が落葉を鳴らしてゆく。赤や黄の前掛に手拭《てぬぐい》のようなものをかぶった老婆達が、そこにもここにも熊手を持っ
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