ろへ流れてゆく島・島・島の連続だけだ。
 灯を吸って赤かったコペンハアゲンの空は間もなく消えた。エルシノアの砲台にぽっちり見えていた旗も、一せいに斜《ななめ》に倒れていた砂原の小松林も、段々に砕ける浪の線も、もう完全に過去へ歿した。ただ、しらじらとして残光を海ぜんたいに反映する空の下を、コング・ホウコン号の吐く煙りがながく揺曳《ようえい》して、水を裂いたあとが一本、雪道のようにはるかに光っている。
 そして、島。
 神出し、鬼没し、隠見する多島。
 食後――ついでだが、北の食事は奇抜な儀式をもって開始される。まず、何らの心的用意なしに食堂へ這入るすべての外国人を驚愕させるに足るほど、一歩踏みこむや否、中央の卓子《テーブル》の周囲に行われているひとつの不可思議な光景が眼を打つのだ。それは、ありとあらゆる、およそ人間の脳力で考え得る限りの動植物――鉱物はないようだった――の 〔hors−d'oe&uvre〕 を幾種といわずテエブルの上に開陳してあるのを、めいめい皿とフォウクを手に、眼に異常な選択意識を輝かして勝手にとってきて食べるのである。こういうと何の造作もないようだが、これが実際に当る
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