泪《なみだ》が凝り固まっているようで、淋しい石だ。ウラルの風。――と。
[#ここで字下げ終わり]
いまこうしてクラッペンボルグのマリア・フェタロヴナの家のまえに立っていると、「運命の老女」が朝夕あそこの窓から見るであろう浪と村と人々の生活――その小さな世の中には何の移りかわりはなくても、何かしらそこに、マリア・フェタロヴナを一生のかなしみから脱却させ、諦めさせ、慰めるものがなければならないような気がする。
私はあたりを見まわした。
低い押戸の門の下に、やはり雑草が雨に叩かれているだけ――海峡の風。
邸内に咲いていた野生の花。
きつねのちょうちん。
たんぽぽ。
くろうば。
日本の春の花だ。
買い出しにでも行ったとみえて、女中らしい若い女がひとり、大きな紙包を抱えて私の横からさっさ[#「さっさ」に傍点]と裏門のほうへ廻って行った。黒い木綿の靴にべったりはね[#「はね」に傍点]が上っていた。
雨後・坂道・寒空
もっと北へのぼろう――ノルウェイへ。
そこで、薄暮。
うら淋しいクヴァスタスブルンの波止場からS・S王《コング》ホウコン号へ乗りこむ。
船客。
あ
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