]と雨滴が大きくなった。じっ[#「じっ」に傍点]と立ち停まっていると、ハムレットの暗い舞台面が眼にうかぶ。私たちはいまその現場にいるのだ。海峡の沖に団々と雲が流れて、あたまのすぐうえで風が唸っている。鳥かと思って見たら、砲台の柱に高く、雨を吸って重い丁抹《デンマアク》の国旗がはた[#「はた」に傍点]めいていた。
ここでも、木棚の肌は遊子のナイフのあとで一ぱいだ。
G・H・W――NYC・USA。
J.S.B ―― Epping, England. June 2,1911.
A・L――ダンジヒ独逸《ドイツ》。
その他無数。
王子ハムレットの墓は、城からすこし離れたマレニストの森のなかにある。大木の根に三角形の石をほうり出したばかりの、いかにも「ハムレットの墓」らしいあやふや[#「あやふや」に傍点]なもので、屋根みたいな三角の両面に、英吉利《イギリス》と丁抹《デンマアク》の帝室紋章がほりつけてあった。ハムレットの墓というより沙翁の記念碑と称すべきだろうが、それにしてもいささか頼朝《よりとも》公十八歳の頭蓋骨の感がないでもない。が、旅行者に批判は必要ない。すなわち低徊顧望よろしく、
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