レットのお父さんなる王様の幽霊が出たという現場と、もう一つ「ハムレットの墓」と称する珍物があるのだ。
 雨が降っていた。
 日光のなかを日光といっしょにふる小雨だ。それが歩きにくい敷石と黒ずんだ塀と、その根元の雑草を濡らすのを、いきなり飛びこんだ名だけ洒落《しゃれ》てる路傍の料理店カフェ・プロムナアドの窓からぼんやり眺めながら、のっぺりした美男給仕人の運んでくる田舎料理をつついたのち、私たちは雨のなかをバアバリイに身を固めてまずクロンボルグの城へ出かけた。
 せまい通りを幾つか曲って、やがてだんだん海へ近づいてゆくと、老樹の並木路を出はずれたところに、草と堀と橋と石垣に埋《うず》もれた古城があった。堀の水は青く淀《よど》んで、雨脚が小さな波紋をひろげていた。第一の城壁の上から高い木の枝が覗いて、そのむこうに太いずんぐり[#「ずんぐり」に傍点]した塔が水気にぼやけていた。橋には大きな釘の頭が赤く錆《さ》びて、欄干は、人間の自己保存の本能を語って訪問者の記念のナイフのあとを一ぱい見せていた。
 G・H・W――NYC・USA。
 J.S.B ―― Epping, England. June 
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