がっている「北のアテネ」に、私達はぽっかりと眼をさました。
北のアテネ――でんまあく・コペンハアゲン。
そうすると、この一個の地理的概念に対して、私は猟犬のような莫然たる動物本能に駆られるのだ。旅行者はすべて、まるで認識生活をはじめたばかりの嬰児のように、あまりに多くの事物に同時に興味を持ちすぎるかも知れない。
What is IT ?
What is THIS ?
What is THAT ?
だから、露骨で無害な好奇心と、他愛のない期待とが一刻も私をじっ[#「じっ」に傍点]とさせておかない。さっそく私は、憑《つ》きものでもしたような真空の状態でまず街上に立つ。町をあるく。どこまでも歩く。ついそこの角に何かがあるような気がしてならないからだ。この「ついそこの角に何かがあるような気」こそは、旅のもつ最大の魅力であり、その本質である。そして角をまがると、いつも正確に何かがある。小公園だ。浮浪者が一夜をあかしたベンチが、彼の寝具の古新聞とともに私を待っている。腰を下ろす。
この時、私の全身は海綿《スポンジ》だ。
なんという盛大なこの吸収慾! 何たる、by the way,
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