のあくほど感に耐えて見ているのだ。氏を通じて、みんな日本に関する色々な質問を提出する。それがかなり高級で、わりにピントが合っているから、一々いささかの吹聴《ふいちょう》意識をもって答えてやる。
これよりさき、彼女を包囲した婦人達のあいだには早くも語学のお稽古がはじまっていた。
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サヨナラ――ヒュヴァステ
アリガト――キウィイドス!
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『あれ。』
と窓をさして、
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月は――クウ。
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芬蘭土《フィンランド》語を三つ覚える。
アントレアを過ぎ、ヴィポリの町で招かれて私たちはヴァンテカイネン氏の客となる。そしてその深夜十三世紀の円塔《ピヨリア・トルニ》内のキャバレで、貧しい音楽に悲しいまでにたのしげに踊り狂う兵士とその恋人や、売子娘とその相手や、町の女、町の男達をぼんやりと眺めながら――異国者はつねに浮気だ――私はすでに帰りの旅を思っていた。
RIGHTO! S・Sリュウグン号でエストニアのリヴァル経由、独逸《ドイツ》ステテン港へ上ろう、と。
二昼夜のバルチック海がこれから私たちの行手にある。
白夜よ、「ヒュヴァステ」!
底本:「踊る地平線(上)」岩波文庫、岩波書店
1999(平成11)年10月15日第1刷発行
底本の親本:「一人三人全集 第十五巻」新潮社
1934(昭和9)年発行
※底本には、「新潮社刊の一人三人全集第十五巻『踊る地平線』を用いた。初出誌および他の版本も参照した。」とある。
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
※誤植が疑われる箇所の確認にあたっては、「一人三人全集」河出書房新社、1970(昭和45)年3月30日初版発行を参照しました。
入力:tatsuki
校正:米田進
2002年12月9日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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